【認知症】症状の進行遅延に活用!『認知症になった私が伝えたいこと』感想

佐藤雅彦「認知症になった私が伝えたいこと」


 

認知症に関する本『認知症になった私が伝えたいこと 』(佐藤雅彦著・大月書店)を読みました。

本書を選んだ理由は、私の両親に認知症の症状が徐々に出はじめており、介護について考えざるを得なくなってきたからです。

祖母の時は私は直接関わっていなかったのですが、親の話によると母をお手伝いさん呼ばわりしたり、物を盗んだと激高したり、反面穏やかだったりと、介護がとても大変だったそうです。

 

私自身2人の障害児を育てているので、何かあったら本当に大変なことになると今から戦々恐々としている今日このごろ。

でも一番考えてしまうのは、認知症になった親と将来きちんと向き合えるかどうかがとても不安です。

認知症と戦う当事者が書かれた本書は、認知症がどのようなものかを理解する上でとても参考になりました。

こちらの本で学んだことなどを以下に書いてみたいと思います。



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本書の内容と構成

 

本書は、51歳にして若年性アルツハイマー型認知症と診断された著者の心の葛藤や、その中で生まれた人との交流、喜びなどを綴った本になります。

生活で生じる様々な悩みを克服するために、多くの工夫を模索されてきたことが本書からとても伝わってきました。

 

先日、脳梗塞患者が書かれた『脳が壊れた』を読んで、当事者しかわからない世界に大変驚きましたが、本書も著者本人が書かれている本とあり、得るものがとても多い本でした。

また認知症も脳梗塞と同じく、精神障害と似ている症状がでることも初めて知りました。

当事者がこの社会をどう見て何を感じているのか、そのところを意識するだけでもとても意義のあることだと思います。

 

下記は著者略歴及び目次になります。

佐藤雅彦(さとうまさひこ)
1954年岐阜県生まれ。中学校の数学教師を経て、システムエンジニアとして活躍。2005年、51歳のときに若年性アルツ ハイマー型認知症の診断を受け退職。

ヘルパーなどの助けを借りながら、現在もひとり暮らしを続けている。趣味は写真、旅行など。認知症について啓発するた めの講演活動もおこなっている。認知症当事者の会「3つの会」代表。

※引用:Amazon『認知症になった私が伝えたいこと』

【目次】
はじめに
第一章 歩んできた日々
第二章 自分で作る自分の生活
第三章 当事者の声を届ける
第四章 認知症と生きる私からのメッセージ
おわりに
解説(永田久美子)
認知症関連サイト

 

本書は約200ページで、大きく4章に分かれています。

第一章では著者の生い立ちから始まり、認知症の予兆から発症、そして現在までを俯瞰して解説しています。

第二章では日々の日記の内容や毎日のスケジュール、物忘れをしないための工夫などを紹介、第三章では著者が関わる認知症の会などの活動内容やその意義などについて語られています。

第四章は著者のメッセージになり、対象は認知症の人、その家族、医師、介護者、地域の人、行政、すべての人へそれぞれ2ページずつのメッセージが書かれています。

 

どの章からも認知症を理解して欲しいという思いがひしひしと伝わってきます。

その中でも私は、日々の症状の記録や物忘れしないための工夫、また著者は私の親と同じく糖尿病でインシュリンを打たれていることから、それについての工夫が書かれている第二章が一番参考になりました。

以下、第二章が中心になりますが、参考になったことをまとめてみたいと思います。



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著者の生活について

著者はアルツハイマー型認知症と診断されて9年、異変を感じ始めて15年になるそうです(本書執筆時)。

診断された当初から施設に入るように言われたそうですが、著者は一人暮らしを続けています。

そのため認知症とわかってもらえないことも多いらしく、講演や執筆活動を売名行為として疑う人も多いとか。

 

著者の生活の中ではパソコンが重要な位置を占めているのですが、認知症になってからパソコンを覚える知人も多いらしく、パソコンやタブレットは重要なアイテムだと思いました。

著者の日記から目立つのは、大事なものを無くす、という記述が多いこと。

例えば、銀行通帳、障害者手帳、部屋の鍵、診察予約票を無くした他にも、銀行通帳に引き出した覚えのない記帳があるなど、かなり大きな物忘れが頻繁にあるようです。

 

週2回ヘルパーさんが食事や掃除などをしてくれるそうですが、トイレ掃除や洗濯は自分でされているようです。他の日の食事は宅配か外食にしているとのこと。

物忘れが激しいので外出はリスクを伴いますが、著者は積極的に外出することを心がけているそうです。

 

様々な工夫

第2章には著者の多くの工夫が紹介されています。

数多くある中から3つだけ取り上げてみたいと思います。

 

「探し物」に対する工夫

著者いわく、整理整頓ができなくなって探し物をしている時間が多いそうです。時には何を探しているのかわからなくなることもあるとか。これは私の両親とかぶります。

認知症について、「物盗られ妄想」がよく言われますが、あれは、「ここに置いたのは間違いない」と思ってしまうからなんですね。自分が別のところに置いたという意識がないのです。(80ページより)

工夫としては、鍵、財布、携帯電話などの「外出セット」をよく目につく定位置にまとめて置いているそうです。

面白いのは、タブレットを定時にアラームが鳴るようにセットすると、毎日どこにあるのか確かめられること。

私の親が携帯をよく探しているので、著者に習ってアラームをセットしてみてもいいかもしれません。

 

「同時に複数のことができない」ことに対する工夫

著者は作業の同時進行(料理など)や複数に注意を向けることがとても苦手だそうです。

テレビを見ながらごはんを食べる、風呂の湯を張るなど、どちらもテレビに気を取られて忘れてしまうこともあるとのこと。

かなり気をつけているのは火を使う時。これだけは電話や来客があってもそばを離れないことを意識しているそうです。

 

その他、人と話す時も同じらしく、一対一だったら問題ないそうですが、複数いると意識を集中することが出来ないそうです。うるさい喫茶店なら尚更ダメとのこと。

これは上の子(自閉症スペクトラム)も言っていたことなので、症状似てるな~と思いました。あっ、物忘れも激しいです。。

 

買物をする時の工夫

大体買い物はヘルパーさんにまかせているそうですが、自分でスーパーに行くこともあるそうです。

困るのは、毎回始めて行くような感じになり、どこに何があるのか覚えられないことだそう。

解決策は、店の人に商品の場所を尋ねるのが一番で、買い物リストも持参して買ったものから消していくと買い忘れなどが無いそうです。

 

一番の問題はレジでの支払いらしく、認知症の人は細かいお金の計算ができないのでお札をだすのですが、そのため小銭がたまりやすいとのこと。

だから著者はクレジットカードを使っているそうです。

私の親は指先が少し不自由なので、小銭を探すのに長く時間がかかり、その挙句落としてしまったりすることがよくありました。

最近はカードを使っているようなのですが、いかんせん田舎なのでカードが使えないところが多いです…。

上記の他にもたくさんの工夫が紹介されてますので、興味のある人はぜひ本書を参考にしてみてください。



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症状を進めない秘訣

第二章最後には、著者の体験に基づいた、認知症の症状を進行させないための秘訣が書いてありました。

□できることは、自分で進んでやる。
□外に積極的に出て、活動する。
□何事も、やる前から無理だとあきらめず、まずは始める。
□ストレスがたまることは、すぐやめる。
□何事にも関心を持つ。
□十分な睡眠をとり、規則的な生活を送る。
□(まわりの人は)「あれはだめ」「これもだめ」と過保護にしない。
□美しいものを見たり、楽しいことをしたりして、気晴らしをする。
□生かされていることに、感謝する。
□役割を持って、充実した人生を送る。

 

また、認知症と診断されたらやっておいたほうが良いリストは下記になります。

□将来、どこに住みたいか、どんな暮らしがしたいかをまとめておく。
□自分史を書いておく。
□財産目録を作成しておく。
□生命保険の書類をまとめておく。
□家の登記簿をまとめておく。
□遺言書を作成しておく。
□終末期医療の治療の希望をまとめておく。
□パソコンやタブレット端末の操作を覚える。
□不必要なものは早めに捨てて、シンプルな生活を心がける。

 

これらはほとんど出来ていないのでとても参考になりました。ただ本人に伝えるのが難しいですね。。

著者は、このリストを見ると不安になる人もいるのではと心配しつつ、認知症になると何もわからなくなるわけでも、自己が崩壊するわけでもないことを付け加えてました。

 

感想&まとめ

認知症に関しては偏見が多く、恐怖心だけが先立つ人や認知症の症状を決めつける人も多くいるそうです。

認知症の症状は人によって様々なので、一概にこうというはっきりした症状はありません。

本や講座を見ても、本人の立場に立った理解や支援を訴えるものはほとんどないとのこと。

この偏見を無くすために、当時者の著者が先頭に立ち、講演や執筆活動をしているとの話でした。

 

最後の第四章で、著者が認知症の人の家族に宛てたメッセージがありましたので、冒頭の一部を引用してみたいと思います。

家族へ

本人の意志が無視され、家族の意向だけで物事が決められていくことがあります。

本人は、何も考えていないのではなく、すぐに判断したり、すぐに言葉にしたりすることができないだけなのです。

記憶障害のために、同じことを何度も言ったり、何度も聞いたりするかもしれませんが、どうか本人の話を聞いてください。

本人は、家族に世話をかけていることに、負い目を持っています。もし家事などで、ちょっとした手伝いができるなら、役割を与えてください。そうすれば、自分が役に立っていることが実感でき、自信が生まれます。

何もしないと症状は早く進みますが、こうすることで、進行を遅らせる効果もあるのではないでしょうか。(168ページより)

まだ文は続くのですが、認知症は近い将来、確実にやってくる現実なので、自分にも当てはめて深く考えたいと思います。