「かがみの孤城」感想(ネタバレなし)辻村深月著 本屋大賞受賞作~オオカミ娘の正体に感動!

かがみの孤城


 

辻村深月著「かがみの孤城」を読了しました。

この小説は2018年本屋大賞を受賞しており、その他の賞も含めると帯情報では7冠を受賞しているとのこと。

普段私はあまり小説を読む方ではありませんが、この500ページの長編小説を読もうと思ったきっかけは、この小説の前評判を見たことに始まります。

この作品には、娘の中学生時代に生じてしまったいじめ、いえ、言葉が過ぎるかも知れませんが、いじめを超えた、娘にとっては毎日が脅迫の連続だと感じていた、あの時の状況に酷似した内容であることに期待したからに他なりません。

 

結局期待以上のものをこの「かがみの孤城」から得られたことになりましたが、娘もこの小説の主人公”こころ“と同じく、中学生の時、一般で言うところのいじめにあい、学校に登校できなくなり、フリースクールに通った後に転校を余儀なくされ、居住地の市では異例だった公立校から公立校への転校を経験したことがありました。

人から聞くことでイメージすることと、実際に自分の身に起こったこととでは、その思い描く世界が全く違ってくるように、この小説の内容に近い体験をされた方とそうでない方とでは、「かがみの孤城」 の見方がある程度異なってくるだろうと思います。

 

かがみの孤城 帯ただ誰が読んでも納得すると思われる見所は、なんといっても山のようにある伏線を最後の最後までぐいぐいと回収していくくだりにあると思います。共感する部分が多いことも相まってとても素晴らしい作品だと感じました。

私の場合、じっくり読んで3日ほどで読了したのですが、後半3/4あたりから本から目が離せなくなり、読了最終日は翌日予定があったのですが朝方近くまで本を手放すことができませんでした。

当事者目線からこの小説を読んだせいか、読了後に涙こそ出ませんでしたが、この小説は特に同じ境遇を少しでも体験した本人及びご家族の人が読めば、とても感慨深い小説になること間違いありません。

 

ところで先日、著者の辻村深月氏が何かのTV番組で紹介されていましたが、辻村氏の著作14作品の内、11作品が映像化されており、特に今回の「かがみの孤城」は著者自らアニメのイメージで作られたとあって、今後、実写化やアニメ化が期待できる作品とのこと。

ちなみに映像化された代表作として「ツナグ」がありますが、その原作は2010年に第32回吉川英治文学新人賞を受賞し、映像化は、主演が松坂桃李、監督が平川雄一朗で2012年に映画化されています。

こちらではこの辻村深月著「かがみの孤城」を読んだ感想をメインに、私が思うことなどを書いてみたいと思います。

 

「かがみの孤城」あらすじや内容について

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――

なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。(Amazon内容紹介より)

 

著者の辻村深月氏は2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビューしましたが、今回の『かがみの孤城』はこの『冷たい校舎の時は止まる』のアンサーだと思ったとの声が著者のもとにも寄せられているとのことです。

私はこのデビュー作をまだ読んでいないのですが、著者曰く、「デビュー作から読んでくれている人が待っていたものが書けたのかな、と思えて嬉しかったです」と語っています。

これは小学館のウェブサイト「小説丸」での著者インタビューのコーナーで知ったのですが、その中で著者の辻村深月氏は、

「こころは読者にいちばん近いと思える子にしようと思いました。ある出来事が理由で学校に行けなくなり、自分はこぼれ落ちてしまったという自覚がある子です。学校に行かなくなったきっかけは、周囲に“いじめにあったんだね”と言われそうですが、本人は“あれはいじめじゃない”と言うと思う。

いじめだと大雑把に括られて同情されるのは嫌なんです。今回はそういうことを掘り下げたいと思いました。他の六人の子も、つまずいてしまった理由はどれも突飛な理由にはしませんでした。そうすることで、自分もそうなってもおかしくなかった、という人の心理も掬い上げたかったのだと思います」

 

と語っています。

また不登校になった娘を育児してきた私が一番興味深かった言葉は、

「この小説を書く際に、フリースクールの先生やスクールカウンセラーの先生にお話をうかがう機会があったんです。その時、一人の先生が“カウンセラーの仕事は風のようであってほしい”と言っていて。

後々、子どもたちに“先生のおかげで今がある”“先生のおかげで助かった”と言われるうちはまだまだで、辛い時期があったけれど気付いたら平気になっていた、その時に何か引っ張ってくれるような風が吹いていた気がする、という感触だけ残ってくれたらいい、ということらしくて。

こころたちも、城の中のことを忘れてしまうかもしれないけれど、城の思い出を頼りにして生きるのではなく、自分の力で生きていくようになってほしい」

 

という下りでした。

不登校になった生徒の心情や、担任及びフリースクールの先生の行動、何よりそのような子に対しての親の気持ちや接し方がやけにリアルだったのは、関係者への取材の中から深掘りされたからこそなんだなと納得してしまった次第です。

 

「かがみの孤城」感想

この小説は特に引きこもったり不登校になった子を育てている親にとっては、一読の価値ある小説だと思いました。

オオカミのお面をつけた少女が管理している不思議な城の中には、ある一つの共通点を持った、様々な事情を抱えた7人の子が集まるのですが、それぞれがそれぞれの家庭の事情を抱えていて、親の意向に左右される子どもならではの心の葛藤が見事に描かれています。

それだけでも一読の価値はあると思うのですが、この「かがみの孤城」はミステリー小説としても絶品で、散りばめられた多種多様のピースが、終盤次々とはまっていく様は快感以外の何物でもなく、この小説を読んで、読書できる幸せを久しぶりに感じた次第です。

ぜひ熟読して鏡の中の世界にどっぷりと浸かっていただくことを切にお薦めいたします。

ネタバレになるようなことはこちらでは書きませんが、死ぬほど救いを求めている子どもが、逆にそのような子を救う立場になったときのぶれない強さにとても感動してしまいました。

この本は文句なく、読んで良かった一冊になりました。

 

まとめ

余裕のない親が子に対してもたらす悲劇は、恥ずかしながら私は自分自身で経験してきましたが、その背景には思うようにならない現実や運命的な要因もあって、一概にこうすればよかったというセオリーが通用しないところに人生の悲劇が生まれると思います。

自分の居場所を確保することは、子どもにとっても努力が必要だと思いますが、その努力も周囲がまともに機能してのことなんだなとこの小説を読んで感じました。

それでも自らの切なる願いがあれば、どんなことでも可能になるというこの本の内容に、すっかり大人になりきっている自分でさえも素直に信じることができるくらい力のある作品でした。

中学生の時の自分を少しでも思い出すことができれば、きっと誰もがこの小説に共感出来ると思います。

素晴らしい小説に出会えて良かったです。