【直木賞 2016年 候補】米澤穂信『真実の10メートル手前』感想

米澤穂信 真実の10メートル手前


 

2016年第155回直木賞候補作『真実の10メートル手前』(米澤穂信(よねざわほのぶ)著・東京創元社)を読みました。

著者の書いた小説を読むのは初めてですが、この本は6つの短編から構成されています。

直木賞の対象は、1つの物語(短編)なのか、この短編集1冊に対するものか私はわかっていないのですが、とにかく冒頭の『真実の10メートル手前』だけでは物足りなかったので、1冊全部読んでみました。

 

いや、面白かったですね。。

冒頭の『真実の10メートル手前』が面白くなかったら本を畳もうと思ったのですが、2作目の『正義漢』がとても意外な展開で面白く、次は次はと読んでいくうちに、気がついたら最後になってました。

 

米澤穂信氏は有名なミステリー作家です。

特に2015年、2016年にミステリーランキングで史上初の2年連続3冠に輝いて、一気に名声を高めました。
「ミステリが読みたい!」「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」

賞を獲得した小説は、2015年は『満願』、2016年は『王とサーカス』になります。

 

今回の短編集は『真実の10メートル手前』(2015年8月)と『綱渡りの成功例』(書き下ろし)以外は大ヒットの2作品より前(2007~2010年)に書かれたものなので 、著者のルーツをたどれる作品かもしれません。

前置きが長くなりましたが、この本について思うところを書いてみたいと思います。



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本書の内容と構成

本書は下記6作品と「あとがき」から構成されています。

真実の10メートル手前
〈ミステリーズ!〉vol.72(2015年8月)

正義漢
(「失礼、お見苦しいところを」改題)
〈ユリイカ〉2007年4月号)

恋累心中
〈ミステリーズ!〉vol.26(2007年12月)

名を刻む死
〈ミステリーズ!〉vol.47(2011年6月)

ナイフを失われた思い出の中に
『蝦蟇倉市事件2』2010年2月刊

綱渡りの成功例(書き下ろし)

あとがき

著者のあとがきによると、本書のタイトルにもなっている『真実の10メートル手前』は他の5編の短編と違うところがあるそうです。

それは、主人公・大刀洗万智(たちあらいまち)がフリーランスではなく新聞記者として登場し、一人称の物語になっていること。

 

『真実の10メートル手前』はそもそも、2016年のミステリー3冠に輝いた『王とサーカス』の前日談としてその最初に置くつもりだったらしく、そのため、切り離すのに紆余曲折を経たとのことです。

だから2話目の『正義漢』ではテイストが違い、私はちょっと不思議な雰囲気で話に引き込まれていったのだなとわかりました。

ちなみに『正義漢』は、『さよなら妖精』に登場した大刀洗万智が大人になり、より大きな責任を負って真実と向き合う短編だそうです。

◆著者略歴
1978年岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞してデビュー。

11年に 『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞、14年には『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞。

『満願』および15年発表の『王とサーカス』は三つの年 間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の二年連続三冠を達成した。

※引用:Amazon『真実の10メートル手前』



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主人公、大刀洗万智について

とてもキャラが立っている主人公・大刀洗万智(たちあらいまち)は、30代前半の女性フリージャーナリスト。

一見冷たく見える容姿と、ほんの時折見せるギャップ(いい意味でのおやじくささ)がとても魅力的に感じました。

また、類まれな観察眼や推理力を持ちながら、暴走せず、冷静に仕事を処理していくさまがとてもかっこいいです。

 

大刀洗万智がイメージできるシーンを3つほど引用してみます。

「すみません。わたし、フリーの記者で大刀洗万智と言います。檜原京介さんですよね」

丁寧ながらも凛とした声だった。大刀洗と名乗った記者の目は切れ長で、鋭い。引き締まった表情は冷たくさえある。威圧されているようで、京介は思わず目を逸らした。(「名を刻む死」156ページより)

 

大刀洗はあまり表情が豊かでなく、一見すると怒っているのかとも思える。

もし私が彼女について何も知らなければ、彼女を不快にさせたのかと思って戸惑うか、それとも日本人全般について誤った認識を抱いてしまったことだろう。(「ナイフを失われた思い出の中に」201ページより)

 

私たちは隣り合い、私はビールを、大刀洗は日本酒を飲んでいた。客が私たち二人だけなのをいいことに、酒がまずくなるような話をする。

伊勢湾で獲れた海の幸を肴に、大刀洗は盃を傾ける。鰈(かれい)らしき刺し身で溜まり醤油をほんの一撫でし、ゆっくりと口に運び、また酒を飲む。

その盃を置くと、大刀洗はこちらを見るでもなく、呟くように言った。(「恋累心中」129ページより )

一番下は、男性記者がビールを飲んで、大刀洗が日本酒を飲んでいるシーンです。

日本酒が飲みたくなりましたね。。

 

感想&まとめ

短編なのに伏線が多く、想像しない結末がいつも待っているので、6編ともとても楽しめました。

寝る前に30分ほど読書を楽しもうと思うなら、この本はとてもおすすめです。

著者の3冠作品も後日読んでみようと思います。

第155回の直木賞は、いったいどの作品になるのでしょうか。。

 









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