カズオ・イシグロ「日の名残り」感想とあらすじ~ノーベル文学賞作家

カズオ・イシグロ「日の名残り」


 

先日ノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロ氏の代表作「日の名残り」を、先ほど読み終えたところです。

実はイシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したというテロップが流れた時に、すぐにアマゾンで中古本をあさったのですが、注文している最中でもクリックするたびに中古本の値が刻々と上がり、結局イシグロ氏一番の代表作「日の名残り」を買うことができませんでした。

その時は慌てていて、そもそも代表作は何かを調べる間もなかったのですが、結局安く買えたのは「わたしを離さないで」「女たちの遠い夏」「遠い山なみの光」「夜想曲集」くらい。

 

購入で失敗したのは「女たちの遠い夏」が「遠い山なみの光」に改題していたのですが、違う作品と勘違いして両方買ってしまったこと。またその作品は翻訳に難があるという書評が多いことも気になりました。

それはさておき「日の名残り」はイギリス最高の文学賞で知られているブッカー賞を受賞していることもあり、イシグロ氏の作品の中でも一番人気で、新品でもいまだにかなりの納期になっています。

そのため今回は、待ちがない電子書籍でこの本を読むことにしました。

 

本題から外れてすみませんが、電子書籍の話を少しだけ。

私の場合だいたい初めはアマゾンで中古本を探し、なければ新品を買う流れがほとんどなので、今回の電子書籍のみの購入はどちらかというとイレギュラーになります。

電子書籍を避ける理由は、身内であっても共有しにくい構造になっていることと、読了後に本を売れないこと^^;  あとは本が手元にある方が雰囲気的に好きだとか。

でも反面、私は電子書籍で文字を読むことが大好きなので、両方買えれば完璧なのですがそうなると予算オーバー。

やはり教育無償化が叫ばれるこの時代、どちらかではなくどちらもが理想なのは間違いなく、例えば本を一冊買えば電子書籍が無料でついてくる、それが無理ならせめて電子書籍の価格が本の半分以下の設定なら、予算的にもまだ妥協の余地があるのにな~といつも思います。

 

ところで電子書籍の捨てがたいメリットは、本を速く読めることでしょうか。

キンドル端末(ペーパーホワイト)で読むと、体感で本の1.5倍くらい速くなるように感じます。

本独特のめくる行為が無くなることは悲しいのですが、付箋や線引きするペンなど、私の場合、読書には本以外にもいくつかのツールが必要です。

キンドル端末ならそれらは不要ですし、暗がりのままで読むことも普通に出来るので、慣れれば書籍との距離感は本よりも少なくなるように感じます。

時間を買うという点ひとつとっても、キンドル端末はかなり便利なツールだと思いました。

余談が過ぎましたが、カズオ・イシグロ「日の名残り」はいったいどのような本なのか、以下に内容や感想などをまとめてみたいと思います。



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カズオ・イシグロ「日の名残り」のあらすじと内容紹介

今、日本で一番注目されているカズオ・イシグロ著「日の名残り」とは、いったいどのような本なのでしょうか。

まずはアマゾンの書籍内容から簡単なあらすじ等を見てみたいと思います。

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。

長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。

失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

著者略歴:イシグロ・カズオ
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、家族と共に渡英。以降、日本とイギリスの2つの文化を背景にして育つ。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。

1982年の長篇デビュー作『女たちの遠い夏』は王立文学協会賞を、1986年に発表した『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞。1989年には長篇第三作の『日の名残り』でブッカー賞を受賞

イシグロ氏は日本の長崎で生まれ5歳で渡英しましたが、イギリス人ゆえこの作品も原文は英文で書かれています。

日本で出版しているイシグロ氏の書籍はもちろん翻訳されて日本語で読めますが、「日の名残り」を読む限り、この本の翻訳はとても素晴らしいと感じました。

イシグロ氏の背景を知らない人が読めば、イシグロ氏が直接書いているのだと思う人も多いのではないでしょうか。

 

 

「日の名残り」の翻訳者は土屋政雄氏。

この方は英米文学翻訳家で、調べてみると代表的な訳書は『イギリス人の患者』オンダーチェ。『アンジェラの灰』マコート。『コールドマウンテン』フレイジャー他、とありました。

私が知らない本ばかりですが、「日の名残り」のあとがきは翻訳者の土屋氏自身が執筆されています。

そして、このあとがきは必見

本を読み解く謎掛けを提供してくれており、またこの本は考えていた以上に奥の深いものだということも、あとがきを読んでわかりました。

やはり、受賞作は凄いです。

以下、ノーベル文学賞と「日の名残り」に感謝しながら読後の感想を書いてみたいと思います。

 

カズオ・イシグロ「日の名残り」の感想

 

カズオ・イシグロ「日の名残り」目次

とても美しい小説でしたが、もう一度読んでみたいと思わせる奥深さも併せ持っている小説だと思いました。

色々と想像させてくれるしかけがある(例えばなぜ旅行5日目が抜けて、なぜ6日目の場所にいるのかなど)こともそうですが、

人が皆、間違いなくいつか経験する老いと仕事の問題、そして人生を方向転換する必要に迫られた時、どのように行動したらいいのか、

それらにはもちろん答えはありませんが、主人公とその仕事を通してそのことを考えさせてくれる作品だと思います。

 

私が印象に残ったところは、仕事に対してとてもストイックな考えを持つ主人公スティーブンスが、自身の職務の頂点を以前から明確にイメージし、とある重要な会議で喜びに打ち震えながらその頂点に達した下り。

皮肉にもその会議から引き起こされた世界的動乱が、執事として使えるご主人様、そして主人公をともに没落させていくのですが、主人公の心の声と実際に動く世界の間になんともいえないギャップがあり、その部分がとても印象的でした。

 

没落後、しのびよる老いが職務にも支障をきたすようになったスティーブンスの最後の望みは、いわゆる古き良き時代を少しでも取り戻すべく、かつてとても親しく仕事をしていた女中頭から届いた手紙をきっかけに彼女を連れ戻すこと。

これは主人公の願いでしかなかったのですが、結果八方塞がりになり自らの人生に疑問を投げかけるさまは、仕事に一生を捧げた仕事人間の末路が描かれているようで、とても哀愁漂うシーンに感じられました。

この物語を終始貫いているテーマ「品格」とは一体なんだったのでしょうか。

 

身体能力の衰えで仕事の質が悪くなっていく、という現実は超人を除いて誰にでも起こり得る問題だと思いますが、執事という粗相の許されない職務ゆえ、その切実さを身近に感じられる作品でもありました。

そうなった後の人生にはいったい何が残り、理想の人生を歩みつづけるためにはそこからどう生きたらいいのか、この小説はそこのところをとても考えさせてくれる作品だと思います。

その意味でも「日の名残り」は繰り返し読むに耐える作品であり、出会ってよかった一冊になりました。

イシグロ氏の他の作品も数冊買っていますので、後日読んでみようと思いますが、その前に「日の名残り」の映画版が特に興味深いので、まずはそちらを観てみたいと思います。