◆新型出生前診断の情報も!『本当はあまり知られていないダウン症のはなし』について
玉井邦夫著『本当はあまり知られていないダウン症のはなし』を読みました。
正直タイトルに惹かれたということもありましたが、タイトル通り、私の知らないことがたくさん書いてありました。
この本では、ダウン症の子とその保護者が、生活していく上でどのように関わっていけばいいのか、問題点は何なのか、そして何を大切にしていけばいいのかが、わかりやすくイメージできます。
出生前診断の考え方についても最新のデータからひも解いて解説されていますので、ダウン症を取り巻く今の環境についてもとても勉強になりました。
こちらではこの本の概要や感じたこと、その他について書いてみたいと思います。
スポンサーリンク
『本当はあまり知られていないダウン症のはなし』について
きっかけ
この本を手に取ったきっかけは、著者がダウン症にとても詳しい玉井邦夫先生だったこともありますが、この本が2015年8月発行で、比較的新しい情報が掲載されていると思ったからです。
ダウン症に関しては、最近では出生前診断が社会的問題になったこともあり、情報が錯綜しているところが多いです。
その中で、ダウン症に関して著名な先生が、これらに対してどのようなご意見をもたれているかについてもとても興味がありました。
また、前回読んだ同じ著者の児童向けの書籍がとてもわかりやすかったこともあって今回この本にとても期待した次第です。
概要
この本は、神奈川LD協会のセミナーにおいて、玉井邦夫先生が講演された内容をまとめているものです。
この本に関しては下記リンク先が詳しいです。
→ 神奈川LD協会HP/新刊のお知らせ
講演録とあって、話し言葉中心で書かれていますので、構成も含めてとても理解しやすい本だと感じました。
100ページほどの本なので、読むのにそう時間はかからないのですが、そこに書かれている内容は深く、多岐にわたり充実しています。
大見出しだけ下記に記載いたします。
・第1章 本当はあまり知られていないダウン症のはなし
・第2章 ダウン症のある人の青年期・成人期
・第3章 ダウン症の家族支援
・第4章 出生前診断をめぐって
・コラム
・さいごに
私はダウン症の子を10年以上育てていますが、初めて知ることも多く、とても視野が広がりました。
情報の大切さがよくわかる本だと思います。
単なる情報にとどまらず、その情報をどう生かしていけばいいのか、著者自身の言葉で終始語られていますので、とても本の内容に引き込まれました。
最後のコラムやあとがきも素晴らしいです。
スポンサーリンク
感想
全体的にとても説得力のある本だと思いました。
それは、例えばデータを解説されるときでも、その意味を著者の豊富な経験から俯瞰(ダウン症の赤ちゃんから最期を通じて)して語られるので、納得しながら学ぶことが出来ます。
内容も今までダウン症の子を育てていて気づかなかったことが多かったです。
ダウン症の子の保護者の方で、いったいどれくらいの方がこの本の内容を理解しているのでしょうか。
日本ダウン症協会などの親の会に定期的に参加したり、自分の子より年齢が高いダウン症の子の保護者との付き合いがある方はもしかして自然にわかる内容かもしれません。
でも私のような田舎に住んでいて、ダウン症に特化した親の会になかなか参加できない人は、こういう情報はとてもありがたいです。
印象に残ったところ
この本の冒頭で、多くの人が信じていた(信じていたかった?)ことを否定されている箇所には思わずうなってしまいました。
具体的には、ダウン症の子は「天使」だという迷信。
ダウン症の親にとっては確かに天使と思いたいし、生まれた当初はそう思わないと身が持たない側面があるのかもしれません。
でもいつか大人になる現実が、わが子には必ず来るんだなとあらためて実感しました。
赤ちゃんやこどもの期間(外見上)が他の子よりかなり長いため、親も麻痺してしまうところがあるのだと思いますが、外見と内面のかい離がだんだんと顕著になってきている私の子を見ていて、少し危機感を感じました。
それに気づいて現実を見ることはかなりのストレスにはなりますが、それは決して悪いことではなく、親が変わるきっかけになるチャンスだとも思います。
この本にあるように、子どもにとって一番大切なのは必ずしも親ではないとすれば、友人関係の構築も考えていかないといけません。
そう意識してみると、親の会の意義がさらに理解できるようになりました。
あともう一つ、私の子はまだ小学生なので、中学生以降のイメージが出来ていませんでした。
この本には第2章で、青年期・成人期のことが書かれていて、その章全般はとても参考になりました。
ただその先のこと、例えば子が将来どのような施設に入るのか、その時親はどうすればいいのか、また自分が先に死んでしまったらどうなるのかはこの本ではまだイメージできないので、その点がとても気になるところです。
そちらの方の情報も意識して探してみようと思います。
まとめ
新型出生前診断のことも書いてありましたが、数年後には母体血の中から完全な胎児のDNA情報を取り出す技術が完成するそうです。
赤血球は基本的に核はないらしいのですが、胎児の赤血球は核を有していて、それゆえ完全なDNA情報を入手できるとのことでした。
この技術が完成すると、もはやダウン症だけの話ではなく、生まれる前でも例えば、何歳以上の発がんリスクは通常の何倍であるなどが事前にわかるそう。
信じられない話ですが、その時に病院や妊婦さんはその事実にどう向き合ったらいいのでしょうか。
その時になったら、今度は今以上に出生前診断についての議論が活発になるのでしょうね。
『ダウン症の歴史』にも書いてありましたが、「静かな優生学」がひそかに進行しているような気がします。
この本は色々と考えさせられる本でした。
ダウン症に関わられている方全てにおすすめできる一冊です。
関連書籍
・デイヴィッド・ライト著「ダウン症の歴史」
※ダウン症のルーツを学べてとても勉強になる本でした。
・玉井邦夫著「ふしぎだね!?ダウン症のおともだち」
※同じ著者の本です。わかりやすく書かれていますが、あらためて気づくことが多かったです。