子どもが発達障害と診断されたこともあり『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(大隅典子著・ブルーバックス)を読んでみました。
本書は、脳科学専門の著者が、脳の観点から自閉症を解説する本になります。
自閉症の要因がいくつか考察されているのですが、その中で「父親の年齢」が要因の一つにあがっていたことが非常に興味深かったです。
ところでこの本を読んだきっかけは、佐藤優氏の書評。
先日、週刊ダイヤモンド連載の書評に、珍しく自閉症の本(本書)が紹介されてました。
サブタイトルは『「障害」と「個性」のあいだ』ですが、佐藤優氏いわく、その区分は非常に難しいとのこと。
本書で特に参考になったのは、自閉症の知識や自閉症が増加している要因などでした。
こちらではその辺りを中心に見ていきたいと思います。
スポンサーリンク
本の概要
下記がこの本の目次になります。
第1章 自閉症とは何か
第2章 脳はどのように発生発達するのか
第3章 ここまでわかった脳と自閉症の関係
第4章 自閉症を解き明かすための動物実験
第5章 自閉症を起こす遺伝子はあるのか
第6章 増加する自閉症にいかに対処するか
この本は自閉症とは何か、どのような原因で生じるのか、いまどのような研究が進んでいるのかについて、わかりやすく書かれています。
全般的に興味深く読みましたが、私は特に第1章と第6章が参考になりました。
著者の大隅典子(おおすみのりこ)氏は、神奈川県出身の神経科学者(神経発生学・発生発達神経科学)で、専門は神経生物学(神経発生学・発生発達神経科学)です。
ウィキペディアによると、著者は、脳の発生・発達の観点から人間の心のなりたちを理解しようとする研究を展開され、特に精神疾患にまつわる問題への関心が高いとのことでした。
自閉症の問題点
米国の統計で、自閉症と診断される人の割合は2014年には68人に1人と、40年前の約70倍に増えているそうです。
昨年の秋ごろには、あのセサミストリートのホームページに「ジュリア」という自閉症の女の子が新しく登場しました。
米国では自閉症の増加について、かなり深刻な状況に陥っていることがよくわかります。
自閉症は発達障害のカテゴリーに含まれますが、最近は「大人の発達障害」もよく聞くところです。
実際、私が以前働いていた会社にも一人いたのですが、やはりなにかと浮いており、いわゆるトラブルメーカーでした。
当時、私も周りの人も、自閉症に対して知識不足だったので、その人に何もしてあげられなかったことを今になって後悔しています。
自閉症は「子どもの心の病気」と考えられていますので、子どもの頃にそういう診断を受ける機会がないと、大人になってからも自分が自閉症であることを知らないままの人も多くいるのです。(はじめにより)
また、自閉症の原因は親の愛情不足であるという考えが現在でも根強く残っていますが、これは全くのデタラメで、自閉症児を持つ親をいまだ苦しめていることの一つです。
この本でも書かれていますが、これらは周囲の理解不足によるものなので、自閉症について広く理解されるような社会に早くなってほしいと願います。
スポンサーリンク
自閉症スペクトラム障害の3大特徴とは
自閉症は「社会性の異常」「コミュニケーションの障害」「常同行動」の三つが大きな特徴とされています。これらは「三つ組のコア症状」とも呼ばれ、重要な診断基準となっています。(21ページより)
■「社会性の異常」と「コミュニケーションの障害」
本書に書いてある典型的な症状は、
・親とも目を合わさない
・人が指をさした方向を見ようとしない
・まるで耳が聞こえないかのように名前を呼んでも反応がない
などですが、その他、空気が読めないというタイプもあるそうです。
■常同行動
同じ行動を繰り返すことや、一定の場所にとどまって動かないなど、表れ方はさまざまです。
例えば下記は、セサミストリートのジュリア(自閉症キャラ)のケースです。
・積み木を黙々と一定のルールで並べ続ける
・車のおもちゃの車輪をずっとぐるぐる回し続ける
・うれしいとき手をひらひらさせる
自閉症の人が働きにくい社会
今の社会は、一昔前と比べて情報化が進んでいることもあり、発達障害の人が働きにくい状況になっていると思います。
例えば家内が働いているスーパーでは、最近ポイント付加のルールがより複雑になって、一般の人でもとまどうことが多いそうです。
上記は一例ですが、仕事が複雑になればなるほど本来の仕事に集中できず、ついていけない人もでてくるのではと心配しています。
現代社会では、対人関係が重要となる第三次産業が仕事の大半を占めるようになりました。とくに日本のような先進国はその傾向が顕著です。
ある意味で、自閉症の人が生きにくい世の中になっているともいえるのではないでしょうか。(49ページより)
自閉症急増の原因は?
冒頭でも書きましたが、アメリカではここ40年の間に、自閉症患者が70倍も増えています。
考えられる原因としては、この30年の間に診断基準や診断方法が変化したことがあげられます。
たとえば、自閉症の診断基準が確立する以前は「精神遅滞」という診断名がつけられていた症例の中に、
現在の基準でいえば「自閉症」と診断されるべきものが多数あったと思われるのです。この影響は少なくありません。(217ページより)
自閉症の概念が拡大したということですが、それに加え、自閉症が広く認知されたことにより、子どもを受診させる保護者が増えたことも考えられます。
また、第一次、第二次産業で機械化が進み、労働がより複雑になっている中で、適合できない人が発達障害にカテゴライズされることもあるようです。
一方、遺伝子の突然変異(進化)で考えると、数十年では期間が短すぎることからそれも考えにくいとのことでした。(218ページ参考)
スポンサーリンク
自閉症の発生原因について
■母体環境
親の影響として大きなもののひとつは、生まれるときの「母体環境」です。母体の栄養が不足していると、その影響は子の発生にダメージを与えます。
体の中で脳はもっともエネルギーを必要とする臓器なので、とくに胎児の脳が育つ時期の栄養不足は、影響が大きいと考えられます。(219ページより)
この根拠として、第二次世界大戦の頃のオランダ大飢饉の影響が書かれていました。
その時は統合失調症があきらかに増加したそうです。(自閉症に関しては混乱期で不明)
著者が心配しているのは、日本での低体重出生児が年々増加しており、2500g以下の赤ちゃんは現在約10%まで増えていること。
グラフで見ると、OECD諸国(経済協力開発機構)の中でダントツに多い数字です。
ひところ「小さく産んで大きく育てる」というキャッチフレーズがありましたが、脳の発生や心の発達の観点からは、決して勧められることではありません。(221ページより)
その他母体に影響されることとしては、
妊娠期に風疹やサイトメガロウイルス感染症に罹患すると、その子は発達障害や自閉症のリスクが高くなることがわかっています。(中略)
さらに、胎児に悪影響をおよぼしかねない母体環境として、母親が服用する薬剤があります。
たとえば「バルプロ酸」という抗てんかん薬が自閉症につながる可能性があることは、すでに動物実験によって指摘されています。(222ページより)
他にもいくつかありますので、詳しくは本書をお読みください。
■父親の影響
実は父親にも自閉症に影響する要因があるそうです。
それは「加齢」
2006年に発表された、米国における疫学的な調査結果があるそうです。
父親が15~29歳のときに生まれた子が自閉症になるリスクを1とすると、30~39歳では1.7程度、40~49歳では5以上、
50歳を過ぎてから生まれた子のリスクは9にまで高まることがわかりました。(223ページより)
詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、その理由としてはDNAの複製ミスにあるそうです。
本来DNA複製ミスは「お直し部隊」というものが修復していくそうですが、加齢とともに働きが悪くなり、がんになりやすくなるとのこと。
これは精子にもあてはまるらしく、
精子が精子幹細胞からつくられるときに生じるコピーミスは、加齢とともに増える傾向があります。(228ページより)
結婚年齢は上がっていますので、これは深刻な問題ですよね。
まとめ
2004年に「発達障害者支援法」が施行されましたが、制度の充実はもちろんのこと、親としてできることは、まずは早期発見であると著者は述べています。
診断を受けるとき、最初はかなりの葛藤があると思いますが、発見が遅れるにしたがって後になっての差は大きいと経験上感じます。
子どもは成長しますが、反対に親の体力や気力は年々衰え、家庭環境(祖父母の死など)も変わっていくためです。
発達障害はその定義も含めて、少し前の情報でも古くなることがしばしばです。
でも本書は2016年4月に出版されたので、情報として新しく、読んでいて安心感がありました。
息子はダウン症ですが自閉傾向が強いので、今後も自閉症についての本をもっと読んでいこうと思います。