中村文則 おすすめ本「何もかも憂鬱な夜に」感想~又吉直樹絶賛!

中村文則 何もかも憂鬱な夜に


 

又吉直樹氏が絶賛している『何もかも憂鬱な夜に』(中村文則著・集英社文庫)を読んでみました。

この小説を読んだきっかけは、又吉直樹著『夜を乗り越えて』の中で、又吉氏が中村文則氏を”特別な作家”としていたためです。

中でもこの『何もかも憂鬱な夜に』は又吉氏が巻末の「解説」を担当しており、その内容からもこの作品にかなり入れ込んでいることがわかります。

たしかにこの小説は素晴らしく、個人的にも感じるところが多くありました。

以下に、この小説について思うことなどを書いてみたいと思います。

 

中村文則著『何もかも憂鬱な夜に』について

著者について

著者の中村文則(なかむらふみのり)氏は1977年9月2日に愛知県東海市で出生。

出身高校は、愛知県立東海南高等学校。最終学歴は、福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

2002年に「銃」で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー、2004年には『遮光』で第26回野間文芸新人賞を受賞、2005年、『土の中の子供』で第133回芥川龍之介賞を受賞。

2010年には『掏摸<スリ>』で第4回大江健三郎賞を受賞。同作の英訳 『The Thief』は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、2012年のベスト10小説に選ばれ、2013年のロサンゼルス・タイムズ・ブック・プライズにもノミネートされる。

同じく2010年に発表された『悪と仮面のルール』では、英訳がウォール・ストリート・ジャーナル紙の2013年のベストミステリーの10作品に選出。

2014年にノワール小説への貢献で、アメリカでデイビッド・グーディス賞(作家が対象)を受賞。

※ノワール小説:小説、映画の一分野。人間の悪意や差別、暴力などを描き出している。闇社会を題材にとった、あるいは犯罪者の視点から書かれたものが多い



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作品について

施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。

どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。

芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。
※引用:Amason「何もかも憂鬱な夜に」

 

印象に残ったシーン

主人公を更生させた施設長が、この小説では重要な存在になっています。

特に施設長の放つ「芸術論」がとても印象に残りました。

「自分の好みや狭い了見で、作品を簡単に判断するな」とあの人は僕によく言った。「自分の判断で物語をくくるのではなく、自分の了見を、物語を使って広げる努力をした方がいい。そうでないと、お前の枠が広がらない」(158ページより)

「自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ」あの人は、僕達によくそう言った。「考えることで、人間はどのようにでもなることができる。…世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる」(160ページより)

この施設長の教えは、主人公を介して殺人犯山井に伝えられます。

山井は当初、控訴せずに死刑になるつもりでしたが、主人公に感化され、控訴して死刑を選ぶことを選択。

ここまでにいたる、主人公と山井とのやりとりがこの小説の山場になります。

この時、わたしの頭の中では、主人公が新井浩文、山井が藤原竜也になってました(笑)



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感想

若い頃、ちょっと外れた生き方をしてきた人にとっては共感できるところが多い小説ではないかと思います。

私はどちらかというと、いろいろ逆らって生きてきた方なので、若いころに体験したこととリンクするところがところどころあり、懐かしく読み進めることができました。

あっ、犯罪にはもちろん縁がありません(汗)

長編小説とはいえ200ページもないので、一日で読み切るには調度良いくらいの小説だと思います。

 

この小説では主人公が「芸術」によって救われていくところが書かれていますが、個人的には納得できるところです。

私は20そこそこの時に、あることが原因で引きこもりになった時期が2年ほどありましたが、その時に国内外の文学や絵画、クラシックなどに病的にのめりこんだことを思い出します。

当時は自分的にはかなり危ない時期で、廃人になる恐怖とのたたかいもあったことから、芸術に走ってしまったのかもしれません。

結局それでもダメだったので、自分に鞭打って社会復帰を果たし、なんとか抜け出すことができました。

当時は新興宗教の門もいくつかたたきましたが、笑い話になってよかったです。(今は無宗教)

 

あやういところにいる若者は、本当に道端の石ころレベルの運で、人生が良くも悪くも変わってしまう実感があるので、この本でもそのようなシーンに共感を覚えました。

この本では、取り返しの付かない犯罪を起こしてしまった時の心の描写が秀逸ですが、連鎖犯罪は勢いで簡単に出来ることが想像できて怖いです。

 

あと、個人的にはっとしたのが、主人公の友人が自殺した後に、主人公宛に送られてきた「真下ノート」。

自分も当時似たようなノートを作っていたので、ドキッとしてしまいました。

 

この小説は、特に若い人が読むとなにかしら感じるところが多いのではないかと思います。

先の見えない悩みはとても苦しいことですが、無知が原因になることも少なくないかもしれません。

でも、犯罪に走ることだけは決してないように、だからこのような本を読んで考える機会を多く作ることも必要だと思います。

 

この小説は人を選ぶかもしれませんが、多くの若い方に読んでほしい本だと思いました。

私もあの頃、この本を読んでいたら少しは救われていたかもしれません。

 









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