「音鉄」という言葉をご存知でしょうか。
写真を撮影して楽しむのが「撮り鉄」ですが、鉄道の音を楽しむのが「音鉄」なのだそうです。
一昔前は「録り鉄」という言葉があったように思いますが、私は鉄道音に関しては駅メロ程度しか知りません。
今回、『音鉄 – 耳で楽しむ鉄道の世界 – 』(片倉佳史著・ワニブックス)を読み、「音鉄」の奥深さに驚嘆しました。
私自身、子どものころから鉄道好きなので、昔は乗り鉄、撮り鉄を繰り返してましたが、「音鉄」は意識してませんでした。
本書を読めば、音鉄をより深く理解できるので、最適な入門書だと思います。
機材や様々な録音テクニックが紹介されてますので、Youtubeで公開されている多くの音と合わせて読むと、一層理解が深まります。
本書で多く出てくる用語に、「吊り掛けモーター車」や「VVVFインバータ車」がありますが、Youtubeで音を聴いてみると、なにかしら昔のトキメキ感が蘇ってきました。
これだけで気持ちがリフレッシュできるかもしれません。
こちらでは、そんな「音鉄」の世界を、本書を通じて少しだけ紹介してみたいと思います。
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本書の内容と構成
さまざまな魅力を秘めた鉄道趣味。本書はその中で、全く新しい楽しみ方を提案した一冊です。駅メロディに始まり、車内音や踏切、車内放送にいたるまで、そ の魅力は無限大。
同時に、季節感や地域差、ご当地文化、鉄道各社の企業文化などを感じ取ることができ、単なる趣味活動に留まらない奥深さも秘めています。 本書はそういった音鉄趣味を分かりやすく紹介したありそうでなかった入門書。
鉄道音の楽しみ方、録音テクニック、音鉄体験、そのほか、欄外には全国各地の 音鉄ネタを250箇所を紹介。気軽に読める一冊、そして旅のお供にもなれる一冊です。
【目次】
音鉄世界を旅しよう
第一章 今、「音鉄」が熱い~駅メロ導入はもはや社会現象!?
第二章 今、なぜ音鉄なのか?
第三章 音鉄趣味と録音機材の深い関係
第四章 音鉄世界を探検しよう
第五章 音鉄趣味の現場から
第六章 より良い音鉄ライフのために
第七章 敵を知って己を知る~音鉄のあれこれ
第八章 永久保存版!音鉄の聖地
第九章 より楽しく、より深く音鉄で盛り上がるために
第十章 とっておきの音鉄格言集
おわりに※引用:Amazon『音鉄』
特に第二章と第四章が楽しめたので、この2つの章の中から気になるところを抜き出してみたいと思います。
音鉄とはいったい何なの?
「音鉄」とはいったい何なのでしょうか。
著者いわく、
これは端的に言ってしまえば、鉄道の魅力を耳で楽しむということに尽きる。そもそも、鉄道と音は切っても切れない関係である。列車が動けば必ず音が出るし、止まっていても何かしらの音が耳に入ってくる。
具体的には、車内放送や運転士による喚呼、されには列車の通過音や踏切の警報音、そして駅の校内放送や発車メロディ・接近メロディなど、まさに「音の玉手箱」といった状態だ。
よくよく考えてみると、鉄道ほど録音対象に満ちたジャンルは存在しないとも言えそうな充実ぶりである。(16ページより)
実は「音鉄」ブームは1970年代にも盛り上がったことがありました。
当時は蒸気機関車が無くなることで、SLブームが巻き起こり、SLの音を収録したレコードが数多く販売されていたのを思い出します。
SLブーム後、「音鉄」は少し鳴りを潜めていたのですが、機材の性能が徐々に上がり、手軽で割安になったことから、最近また人気が高まっているそう。
考えてみれば、スマホでも音は録音できるので、誰でも気軽に鉄道音を持ち帰れる時代になったことは確かです。
ブームは機材次第のところも大きいのでしょうね。
ところで今主力の録音機材は、「リニアPCMレコーダー」なのだそうです。
これはCDと同音質もしくはそれ以上のクオリティで録音できるすぐれもの。
後の編集が大変そうですが、パソコンの無料ソフトを使って、割合簡単にできるそうです。
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2種類の駆動方式について
この本を読む限り、音鉄の対象になる電車の駆動部は、大きく分けて2種類の駆動方式があるようです。
1)吊り掛けモーター車
2)VVVFインバータ車
吊り掛けモーター車は、年々数を減らしているそうですが路面電車ではまだまだ健在とのこと。
稼働時の重低音はもちろん、高速度時の甲高い音も魅力的だ。これほどまでに「力強さ」を示している音源は多くないようにも思える。(22ページより)
吊り掛けモーター車の駆動音は、下記ウィキペディアのページで聴けますので、興味ある方はどうぞ!
※モバイルで上が聴けない場合、下のYoutube動画が参考になります。
⇛ 【吊り掛け駆動】遠鉄30形電気ブレーキ付き車両
一方、VVVFインバータ車は、現在主流になっている駆動方式だそうで、
軽やかで、どことなく気品を感じさせる音階を愛するファンは多い。特に若い音鉄世代には人気が高い。あらゆる鉄道音の中で最もスマートな音源を挙げれば、やはりこの音になるだろう。(23ページより)
VVVF者のインバータ音については下記Youtube動画が参考になります。
音鉄分類学
著者は、音鉄のテーマを14に分類しているのですが、思った以上にたくさんあるようです。
1)走行音派(「音鉄の王道」と言うべき存在のジャンル。録音者自身が列車に乗り、走行音を収録)
2)駅構内音派(構内放送や発車・接近メロディ、ベル、ブザーなど)
3)駅メロディの世界(接近・発車メロディ。合わせて駅メロディ(駅メロ)という)
4)音風景派~名付けて「サウンドスケープ」(核の鉄道音に外部の音(小鳥、虫、居合わせた人々の会話など)を組み合わせて一つの「音風景(サウンドスケープ)」に仕立てるスタイル)
5)列車追跡派(列車そのものを特定(寝台列車など)、それにまつわる様々な音を集めるスタイル)
6)踏切警報音派(踏切の警報音を集めるスタイル。特に希少価値の鐘式踏切が注目される)
7)駆動音派(厳密には走行音。特に出発時の駆動音は車両によって違うのでそこを追いかける)
8)ジョイント音派(ジョイント音はレールの継ぎ目を車輪が超える時の音。奥深い世界が広がっているとのこと)
9)車内放送派(最近は自動放送が多くなっているが、肉声放送は訛りや個性があって面白い)
10)観光案内&車窓案内派(沿線の案内、時に車掌の判断による車窓案内が面白い)
11)機関車派(各地の復活SLは言うまでもなく、幹線を走る貨物列車の通過音も人気)
12)運行管理派(運転士の喚呼や駅員とのやりとりを録音するジャンル)
13)イベント派(イベント列車の運行時や鉄道イベントが対象。その日だけに流れる放送や、当該列車にまつわる特定の音源を集めていく)
14)海外派~世界は広い!(より大きな刺激を求めて海外に目を向けるファンが増えている)
※上記、各項目の詳細は本書『音鉄』をご参照ください。
まとめ
昨今の撮り鉄マナー問題、情けない限りですよね。
でも「音鉄」も一線を超えれば、社会から批判の対象になりかねません。
特に周囲の目には十分注意したいところです。
著者の話では、著者の友人が車内録音していた時に、盗撮と間違われたことがあったそうです。
また外国で長いガンマイクを持って構内放送を録っていたら、テロリストと間違えられたという話もあるので、このあたりも十分気をつけたいですよね。
著者・片倉佳史(かたくら よしふみ)
台湾在住作家。1969年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。耳で楽しむ鉄道趣味を広めるべく、録音機材を片手に世界各地を巡っている。台湾に暮らしつつ も、年に10回は日本に赴き、録音旅行に出かける。主な著書に『台湾 鉄道の旅』(JTBキャンブックス)、『台湾に残る日本鉄道遺産』(交通新聞社)、『ワンテーマ指さし会話 台湾×鉄道』(情報センター出版局』など。