脳梗塞の症状と後遺症は回復する?『脳が壊れた』感想~発達障害と酷似

鈴木大介 脳が壊れた


 

今話題になっている本、『脳が壊れた』(鈴木大介著・新潮新書)を読みました。

本書は脳梗塞に見舞われた著者が、記者の目で自身の脳梗塞を解説する珍しい本になります。

最近、私の周りで脳梗塞で倒れた人がいて、私も人ごとではなかったので購入してしまいました。

 

この本以上に付箋を貼って熟読した本はあまりないような気がします。

それくらい身につまされ、また、私生活にヒントを多く与えてくれた本になりました。

本書では、脳腫瘍の初期症状や身体感覚、リハビリによる回復過程、自宅療養にいたるまで、著者が体験した一通りのことが語られています。

 

読み終えた感想は、脳腫瘍にかかわらず、非常に多くの人が対象になりうる本だと感じました。

この本は、例えば夫婦仲が悪い、障害児を育児している、高齢者介護をしている、ワーカホリック(仕事中毒)などなど(ほぼ私ですが…)、様々な境遇で悩んでいる人に、従来にない視点から改善のヒントを与えてくれる本だと感じます。

以下、この本について感じたことなどを書いてみたいと思います。



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本書の内容と構成

養老孟司さん推薦!
「一気に読んだ。『人が変わること』とは『脳が変わること』。その脳の変化を当事者が記録した、貴重なドキュメントである」

突然の脳梗塞に襲われた41歳のルポライター。一命は取り留め、見た目は「普通」の人と同じにまで回復した。けれども外からは見えない障害の上に、次々怪現象に襲われる。

トイレの個室に突然老紳士が出現。会話相手の目が見られない。感情が爆発して何を見ても号泣。一体、脳で何が起きているのか? 持ち前の探求心で、自身の身体を取材して見えてきた意外な事実とは? 前代未聞、深刻なのに笑える感動の闘病ドキュメント!

(目次)

まえがき
第1章 どうやら脳がまずいことになったようだ
第2章 排便紳士と全裸の義母
第3章 リハビリは感動の嵐だった
第4章 リハビリ医療のポテンシャル
第5章 「小学生脳」の持ち主として暮らす
第6章 感情が暴走して止まらない
第7章 本当の地獄は退院後にあった
第8章 原因は僕自身だった
第9章 性格と身体を変えることにした
第10章 生きていくうえでの応援団を考える
鈴木妻から読者のみなさんへ
あとがき

※引用:Amazon『脳が壊れた』

養老孟司氏推薦の言葉で、「『人が変わること』は『脳が変わること』」、と書かれていますが、補足すると著者の場合、脳梗塞で脳の状態が変わったから即、人が変わったのではありません。

脳梗塞により心体がコントロールできなくなったことで、今までいぶかしげに思っていた他人の奇妙な言動が実感でき、そのため著者の内面が変わり人が変わった、という意味になります。

だから本書は、脳梗塞そのもののレポートもかなり強烈なのですが、それ以上に、著者が脳梗塞以前には気づかなかったことを新しく学んでいく過程や思考の変化が、一番の読みどころだと思いました。

 

脳梗塞の初期症状

知人もはじめは「しびれ」からきたと言ってましたが、著者も初期症状はしびれによるものでした。

しびれたりしびれなかったりしていたので、てっきりパソコンの「タイピング病」と勘違いしていたとのこと。

わかったのは朝パソコンに向かって音声認識ができないほど「ろれつ」が回っていないことに気づき、はじめて脳に異常があると気づいたそうです。

 

知人は軽い方だったので、1ヶ月位で電話できるまでに回復しましたが、脳梗塞は再発すると悪化していくので、好きだったタバコはやめたと言ってました。

脳梗塞は処置が遅れると重篤な後遺症を残るそうなので、もししびれがきたらすぐに脳を診てもらおうと思います。



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一番印象に残ったページ

本書で印象に残ったところは本当にたくさんありました。

人それぞれだと思いますが、私は著者の下記の言葉でした。

もしあなたの近くに、孤独な当事者(高次脳や脳疾患者)がいるならば、もしその人があなたにとって人知れず自殺なんかされたら悲しくなってしまう相手ならば、まず「行動」してほしいのだ。(中略)

苦しみを具体的に言語化することは多くの人にとって非常に難しいことだから、できなくて当然だ。

であれば、「助けてほしい」の声を待つのではなく、「大丈夫?」と聞くのでもなく、その人がしてほしいだろうことを黙ってやってあげてほしい。

なぜなら面倒くさい性格の僕たちは、「大丈夫?」と聞かれたら、大丈夫と答えてしまう。「何かしてほしいことある?」と言われたら「大丈夫自分でやれる」と言ってしまうのだ。

だから、聞かずにやってほしい。(218ページより)

 

私ごとですが、認知症の傾向がある高齢の親に対して「大丈夫?」や「~しようか?」と聞くのがともすれば当たり前になっていたので、とても反省してしまいました。

特に自分に余裕のないときに多用してしまいそうな言葉なので、このような、実質「心配するフリ」になるような聞き方は出来るだけ避けたいと思います。

だが、本当に追い込まれた人間は、助けての声が出なくなる。そして、「してほしいことある?」と聞かずに一方的にやってくれることが、ようやく助けての声を絞り出すためのプロセスになる。(221ページより)

奥様の存在感が大きい

本書は著者の鈴木大介氏が書いている本ですが、奥様の存在感が半分くらいある印象です。

奥様は、注意欠陥障害で強い副作用があるSSRIという薬を飲んでいたことがあり、著者が帰る度にリストカットでダイニングの床には血だまりができていたとのこと。

また奥様は、著者が脳梗塞になる前に、脳腫瘍の手術をして一命を取りとめています。(5年生存率が8%の不治の病。幸いもうすぐ5年経ち異常なしとのことです)

それが持病の注意欠陥障害と重なり、著者の家事が増えたのですが、著者のワーカホリックな性格も相まって、今回過労が原因の脳梗塞になったのだと述懐されてました。

 

その時の筆者の言葉は、こちらで書けるほど単純なものではありませんが、多分私では耐えられなかったと想像出来る壮絶さでした。

奥様が素晴らしいと思うのは、そんな中でも著者の介護をプラスにとらえて著者を毎日励ましているところ。

もし私の妻だったら、今までの間柄から出て行きかねないと思います。。



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感想&まとめ

本書は、人に対してひとまわり優しくなれる本だと思いました。

私ごとで話は変わりますが、地元のスーパーでは大声を張り上げて店にクレームを付ける常連の高齢者が何人かいるんです。

端から見ると「いい年こいて…」と思うのですが、この本を読むとあきらかに脳の症状なんですね。

 

著者が脳梗塞で経験した症状に「感情失禁」という症状があります。

それが出た時は、自分の感情をおさえることが非常に困難になるのだそう。

著者が感情をおさえられなかったのは「喜」でしたが、それが「怒」になってしまうと、地元スーパーのようになってしまうのかなと思ってしまいました。

 

その他に著者が困っていたことは、人にメンチを切ったり(前からくる人を病的なくらい凝視してしまう)、人の話を斜に構えて聞いたり、女子トイレに間違って入ってしまったりすることを、脳が勝手にやってしまうこと。

明らかに自分が変質者になっているのがよくわかるそうなのですが、避けるすべがなく、精神的にかなりまいっていたそうです。

 

それにしても、著者自身が体験している脳梗塞の説明はかなり難しいと思うのですが、本書はとても読みやすく構成されていて感心しました。

複雑な家庭の状態も、奥様のことを自己中心の視点ではなく、後味よく書ききってしまわれる才能はとても素晴らしいと思います。

これだけの文を書けるということは、かなり良くなっているからだと思いますが、やはり言語についてはまだ完全には治らないとのこと、言葉の難しさをあらためて感じました。

お2人にはこの先も艱難辛苦が多く待ち受けていると思いますが、未来のお2人の幸せを心から願ってやみません。

 









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