又吉直樹「夜を乗り越える」評判と感想~太宰治以外の特別な作家とは?

又吉直樹 夜を乗り越える


 

又吉直樹著『夜を乗り越える 』(小学館よしもと新書)を読みました。

まだ出たばかりですが、売れ行きが好調で、評判も一様に良いようです。

わたしも読んでみてとても勉強になりましたし、今後の読書の指針にもなりました。

文句なく、5つ星。

 

実はわたしはまだ『火花 』を読んでいませんし、又吉直樹氏の本はこれが初めてです。

購入理由は、帯の「なぜ本を読むのか?」のフレーズに惹かれたから。

 

この本は、著者いわく、下記の質問に答えるべく書いた本とのこと。

1)なぜ本を読まなくてはいけないのか
2)文学の何がおもしろいんだ?
3)文学って知的ぶりたいやつらが簡単なことを、あえて回りくどく言ったり、小難しく言ったりして格好つけてるだけでしょ?(はしがきより)

あまり本を読まない人から、このような質問を受けること時々あるそうです。

今回の『夜を乗り越える』は上記の質問に対して、真っ向から説明するために書いた本とのこと。

 

それに対してピンポイントの答えはなかったですが、この本を読んでいると、人それぞれに応じた答えが自然に見つかると思います。

この本はいったいどんな本なのでしょうか。



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本の概要

本の構成は下記になります。

はしがき
第1章 文学との出会い
第2章 創作について-『火花』まで
第3章 なぜ本を読むのか-本の魅力
第4章 僕と太宰治
第5章 なぜ近代文学を読むのか-答えは自分の中にしかない
第6章 なぜ現代文学を読むのか-夜を乗り越える
あとがき

第1~2章までの110ページ程度は、『火花』までの著者の生い立ちが書かれています。

この本は270ページ程度あるので、後半の半分以上が著者の読書論的なもの。

だから『火花』を読んでなくても全然楽しめます。

ですが、『火花』に至る又吉氏の生き様や、特定の作家に対する思いを読むうちに、絶対『火花』を読みたくなるしかけ?です。

 

第3章のタイトルは「僕と太宰治」ですが、この章では、著者の太宰論が興味深く展開されていきます。

著者が一番影響された『人間失格』はもちろんのこと、その他作品や、太宰の妻であり作家の、津島美知子の小説まで解説が及んでいるので、予想以上にこの章は楽しめます。

きっと思春期に太宰を読んだことがある人なら、はまる部分、結構あるのではないでしょうか。

 

巷でよく見かける読書案内本などは、わたしは興味ない作家はつい飛ばし読みしてしまうのですが、この本にはそうさせない力があるようです。

第5、6章では多くの作家や作品が登場するのですが、結局全て読んでしまいました。

読む本が増えすぎて逆に困ります(汗)

 

本のタイトルについて

この本のタイトル、「夜を乗り越える」の由来はどこからきたのでしょうか。

これは、太宰治の死に深く関わっています。

太宰の死はよく知られるところですが、運が悪かったのだと著者は語ります。

 

6月13日の夜だけ乗り切っていれば、太宰はずっと生き続けられたかもしれない。

太宰の性格と当時のシチュエーションから、その夜は乗り越えられたはずだと想像出来るだけに、著者はかなりの無念さを感じています。

また「夜を乗り越える」のフレーズは、著者が抱える悩みにも関係しています。



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著者にとって特別な作家とは

又吉直樹氏にとって特別な作家が存在します。

それはこの本のトリで紹介されている中村文則氏。

ところで、著者が子どものころからずっと抱えているテーマは「人間とは何か」。

「なぜ生まれてきたのか」「なんのために生きているのか」みんな、思春期の頃にある程度決着をつけてきている問題ですが、僕はまだ答えが出ていません。(262ページより)

そんな時、中村さんの『何もかも憂鬱な夜に』に出会いました。この作品は死刑制度をめぐり、あらゆる角度から命について考えさせてくれる小説でした。(264ページより)

 

著者は、中村文則著『何もかも憂鬱な夜に 』に出会ったことで、著者の抱えていたテーマの答え(もしくはヒント)が見つかったとのこと。

そして最後の最後で再びタイトルの「夜を乗り越える」が出てきます。

この小説は誰かにとっての、夜を乗り越えるための一冊になり得るかもしれません。少なくとも僕は、これであと二年は生きられると思いました。別に死のうなんて思ってもいなかったのにそう思いました。(266ページより)

読んでみたい一冊になりました。

 

まとめ

全般的に著者のやさしさを感じた本でした。

紹介している作家すべてに、又吉氏が愛情を感じていることがよく伝わってきます。

また読者に対しても、丁寧かつ繊細な語り口で書かれているので、読んでいて癒されるようでした。

著者に対しての印象が変わりました。

 

わたしはどちらかというと、ノンフィクションやハウツー本をよく読みます。

若い頃、小説をたくさん読んだように、もう一度この本で紹介されている小説の世界に、どっぷり浸かってみようと思いました。

 









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