『ダウン症って不幸ですか?』(姫路まさのり著、宝島社)の著者は放送作家です。
分野が違うのでは?と最初に思ったのですが、著者は今までHIV・AIDS、ダウン症、発達障害などの啓発・支援事業に関わる活動をされているせいか、内容はとても説得力のあるものでした。
また参考文献もとても多いので、かなりの量の取材や勉強をされて、この本にのぞまれたことが伝わります。
なによりこの本は、ラジオ報道部門の最優秀賞を受賞したラジオ番組をベースに、追加取材・加筆の上書籍化されたものです。
その番組とは、大阪・朝日放送の「ダウン症は不幸ですか?」
番組を作る発端は、2013年に導入された「新型出生前診断」だったそうです。
問題になっているその検査の是非を問うために、ダウン症に関する番組を作ったとのこと。
読む前は、放送作家という肩書に少し偏見があったのか、正直期待してませんでした。
でも学ぶところがたくさんあり、この本は読んで正解、おすすめです。
それでは以下に、この本の感想や学んだことなどをまとめてみたいと思います。
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姫路まさのり著『ダウン症って不幸ですか?』について
本の概要
著者の姫路まさのり氏は二人の娘の父親ですが、ダウン症の子はいません。
ですが本を読んでいると、まるでダウン症の子がいるような、そんなやさしい雰囲気の仕上がりです。
ベースになったラジオ番組のテーマとあって、「新型出生前診断」という言葉がところどころに出てきます。
ただこの本ではそれが正しいか間違っているかを論議してはおらず、あくまで読者がこの本に登場する5家族をみて、それぞれ何か感じてくれたら、という意図で作られた本だと感じました。
本の構成は、大きく3章に分かれています。
第1章はダウン症の知識、第2章は5家族の育児体験談、第3章はダウン症児の療育について書かれています。
メインは第2章の育児体験談になります。
全体の感想
放送作家が書いた本だからか、とても読みやすく、それでいて勉強になりました。
ダウン症の本の著者といえば、ダウン症の子がいる親、または療育などに関わる先生などがすぐに思い浮かびます。
今回の本はダウン症に関して客観的な立場の方が書いていることから、読んでいて安心できるところが多かったです。
ところで出生前診断を受ける人は、ダウン症のことをほとんど知らない人(育児レベルで)がとても多いのではないでしょうか。
知識の橋渡しという点では、直接かかわっていない人の方がスムーズだと思いますので、著者には今後も期待しています。
本のメインは第2章の育児体験談になりますが、子どもの年齢が適度にばらついているので、幅広い世代に受け入れられると思います。
羊水検査でダウン症とわかっていながら産んだ人もいれば、愛する子を亡くされた人もいます。
5家族の話を読んで、私自身命の大切さについて再認識するところが多かったです。
子どもがいなくなる経験は私にはまだ無いのですが、もし…と想像するだけで涙が出てきます。
それはダウン症の子は健常の子よりも手間がかかるからだと思います。
だから思い出の量も人一倍、そして日常が非日常的ゆえ思い出も印象の残るものが多いんです。
「出生前診断」で引っかかる胎児は、ほぼ自然流産していく中で、生まれたいと望む貴重な命だと思います。
でも検査の前では隠れようがありません。
だからこの診断を「胎児の虐待」と呼ぶ専門家もいるくらいです。
ダウン症の子を育児することで、正直失うものもありますが、得るものはそれ以上に多くあります。
これは実際に育ててみなければわからないことです。
以下は、この本に掲載されているダウン症児の親の言葉です
単純に、”もったいない”のひと言です。こんなにかわいくて、幸せな想いが待っているのに。特に自分たちのように不妊治療をされたご家族には、もったいないと伝えたい。そのことだけでもいいから伝えてほしい。(57ページより)
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勉強になったところ
ダウン症児の出生率
全体 :1/1000
20代前半:1/1000
30代前半:1/700
30代半ば:1/300
40代 :1/90
45才 :1/30
ダウン症と療育の定義
「ダウン症」と「療育」。
とても基本的な言葉ですが、この定義について再度学びました。
ダウン症は、病気ではありません。生まれつき持って生まれた「体質」と考えるほうが理解しやすいと思います。なので、治療や手術などの医療行為で治るということではありません。(21ページより)
「療育」とは、「医療」と「保育」を合わせたもので、(中略)簡単に説明すると、障害のある乳幼児や児童に対して、日常生活を送る上で困難なことがないよう、一人ひとりの個性や体質に合わせて行われる「教育的援助」です。(182ページより)
言葉について
うちの子は小学校高学年ですが、まだ言葉が出ていません。
ダウン症の子は話すのが得意ではないのですが、この本によると「言葉を貯金する天才」と表現されることがあるそうです。
それは言葉を覚えても、頭の中に貯めておくクセがあるからだそうですが、こちらとしてはすぐに使って欲しいです…
この本では言葉についていくつか書かれていますが、下の文が一番勉強になりました。
ダウン症の子どもは、頭の中で考えごとをする際に浮かぶ言葉【内言語】(ないげんご)が、とても発達しているとも言われます。
たとえば、「はい」と返事ができない場合であれば、「はい」という言葉を言おうと思った瞬間に、「うん」や「いいよ」など、伝えたい内容を同等に意味している言葉が、同時に頭に浮かぶため、「はい」を言い出せないこともあります。(33ページより)
興味ある話
ダウン症の子どもを「こたつのようだ」と表現する医師もいる。これは、ダウン症の子どもが持つ温かさを求めて、親や兄弟、親戚に友だちまで、みんながみんな自然と集まってくるからだ。(55ページより)
健常児だって、障害児だって、どんな子どもにだって、『生まれてくる意味』が必ず存在する。注意欠如や他動性を特徴とするADHD(発達障害)の人間は、古来、狩猟民族だった時代には、種の存続に”欠かせない存在”だったとアメリカの心理学者が述べている。(87ページより)
ダウン症は、その呼び名から「DOWN(ダウン)」=健常者に比べてランクが低いような意味合いに捉えている人も多い。しかし、実際、ダウンという言葉は「ダウンジャケット」など【暖かくて柔らかい羽毛】の意味も併せ持つ。(148ページより)
保護者は、障害を持つ子どもが働くことばかり願って、お金を得るということを教えません。働きにいくだけだから、辞めてしまうこともあります。お金がほしいから働く、お金がほしいから辛抱ができるんです。(164ページより)
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まとめ
もしダウン症児が生まれることが前もってわかっていたら、私でもどういう決断をしていたか自信がありません。
ただ育児してきた中ではっきりと断言できるのは、息子が生まれてきて良かったということにつきます。
家内は流産しやすい体質なので、もし息子が生まれなければ第2子が生まれている可能性は低いと思います。
もし娘だけだったらと思うと、想像できないくらい今のほうが幸せだと考えます。
この本のタイトル『ダウン症って不幸ですか?』への答えはなんでしょうか。
私の経験からですが、ダウン症児は手間こそかかりますが、本人を含めて不幸ではありません。
そもそも「不幸」になるのは子どものせいではありません。
なかなか予定通りにいかないことが多いのですが、それも含めて自分の人生を子どもとともに楽しんでいこうと考えています。
きっと幸せになりこそすれ、マイナスにはならないと思うので。
PS.
今回の本で一番うらやましかったのは、第2章のご家族皆が夫婦仲が良いこと。
障害児が生まれて離婚している家庭も時々聞きますが、大事なのはなんといっても夫婦仲だと思います。
恥ずかしながら私たち夫婦はその点がまだクリアになっていません。
夫婦がお互いを信頼してしっかり意思疎通できていれば、どんな子が生まれても問題ないはずです。
私たちは結婚当初から問題があったので、正直ダウン症の子が生まれなければどうなっていたか…。
子のためにも、家族が更に幸せになれるよう今後もできることを続けたいと思います。